昔から順序だてて話すのが苦手だ。興奮すると特にひどくなる。”またぁ~、主語は?”とそれに慣れた友でも呆れ顔をされること多々ある(当然のことだ)。途中から話し出すのは頭の中で話しているからなのだと思う。周りから抜けていると思われてるだろうが、それも仕方ないことだ(笑)
この小説を読んでどこから書き出そうかとても迷った。読み終わって少し時間が経つけれどなかなかまとまらない。時間だけが経ってしまうから、感じたことをそのまま書き出してみようと思う(以下ネタバレ注意)。
聴く力
序盤主人公が過去を振り返る場面が長くある。そこに父親にありがちなことで気になるシーンがあった。物語の主旨とは違うところで自身のアンテナが動いた。
夫婦のコミュニケーションの場面だ。
妻が娘のことを相談したいのにその内容が常識に外れるということで夫が話を真剣に聞かない場面が多く描かれていた。無理ないとも思うが常に聴く姿勢は崩してはならないと思う。特に子どものことは。
夫は不思議な現象を話す妻に耳を傾けず心の病気扱いをする。自分で確かめることもせずに。常識の枠にはめて物事を理論的に考えるのが得意なのは男性が多いと理解するけれど、話したいと思っている人、知恵を借りたいと思う人の話を時間を作って向き合うことは対象の人が大切な人であればあるほどその重要性は増す。このことは今まで見聞きしたり体験した上で感じていることだ。激しく後悔することになる。
常識的なことに当てはめて考えることが得意ではないというところに補足をしたい。母親は子どもにとても敏感だ。説明できない部分で理解することが多い。目の動き、話すタイミング、ありとあらゆる角度から読み取る。言葉を話せない赤ん坊の意図をハッキリと読み取る訓練をその子が生まれてからずっと毎日しているのだから当然生まれる能力なのだ。それを無視して心の病気扱いをされると伝えようという気が失せる。妻は夫に相談することを止めた。二人で解決しようとしていたら物語に違う展開をもたらしていたのだろうと思う。
子どもの成長過程を一緒に楽しむことが老後孤独にならない秘訣なのかもしれない。
グレーな空気
この本を読んでいると娘に話したら”それって不倫の話でしょ”と顔を歪めた。読み始めだった為”そうなの?””時間軸が歪む話じゃないのかな”と彼女の放つグレーな空気を吹き飛ばすように答えた。
物語は登場人物それぞれの視点から語られる。
生まれ変わりの瑠璃の話が中心だけれど印象に残ったエピソードが二つある。一つは強い結びつきともう一つは執着。その対比が面白かった。
前者は瑠璃と三角。生まれ変わっても会いたい人。何度も何度もトライする。生まれ変わりと言うか正確には前世を思い出すという話(”前世を思い出す子どもたち”という本が出ているからそれも本当にある話なのかもしれない。ロマンティックと感じる一方必ずしもいい記憶だけじゃないだろうし自分がそうだったら複雑な気持ちになるだろう)。この二人の間には動かせないと思える障害が無数にそびえたっている。それを諦めることなく瑠璃は飛び越えようとする。執着?と思えるくらいだけれど、相手をコントロールするわけじゃないからそうじゃない。只々一緒に居たいそう思うだけなのだ。
後者は瑠璃と夫正木の関係。彼は自分の理想を瑠璃に押し付けてばかりだ。相手の気持ちに耳を傾け、関係を育てようとせず自分の敷いたレールを歩かせようとした。子を授かるべく努力させるのもその一つ。思い通りにならなかったから他の女性に走る。それを棚に上げ生まれ変わった瑠璃(希美)に嫉妬を爆発させ、腕をグイとつかみ車に強引に乗せたシーンはその極みと言える。執着が生み出すものは物語でも現実でもハッピーエンドを生み出さない。
遺書
”ちょっと死んでみる”
正木の上司の遺書だ。
これ書いて大丈夫なのかと単純に思った。
姿形
初代瑠璃の容姿は美しいことが色々なシーンで想像できた。それもクールビューティーではなく舌をペロッと出す愛嬌あるキャラクターだ。人目を惹かずにはいられない最強の武器を二つも持っている。羨ましい。大学生であった三角が惹かれない理由がない。世間では批判される不倫という形ではあるけれど惹かれる自分を否定する程不幸なことはない。心の中で自分を偽る必要はない。
二代目小山内瑠璃、三代目小沼希美、四代目緑坂るりと当然ながら姿かたちは全く異なる。年齢も27歳、二代目以降は小学生。容姿は関係なく魅かれることにその愛情が深いことを感じ取ることが出来た。
とてもロマンチックだ。
タイミング
二代目小山内瑠璃は高校生まで三角と会うのを我慢した。でも待っていても結局会えず死んでしまった。ならば会いたいと思った時に最大限努力しようという気持ちになるのは当然だ。
三代目小沼希美は三角に会うべく名古屋へ向かう車から車道へ出たため事故にあい死んだ。その経緯がある為最後のシーンはドキドキした。読むペースが加速した。
小学生がオフィスビルでおばあちゃんと同じ世代の人を呼び出すことはハードルが高い。不審に思われ警察に一報入れられても仕方のないことだ。それを予測しながらもるりはトライする。周りの大人によって追い立てられた彼女の先に待つ人。彼が伝えた言葉が心にしみこんだ。