今回手元にある推理小説を続けて読む気にならず数少ない本の中から選んだ(高校生までは本を棚に残していたけれど最近はすぐにメルカリかブックオフで売る)。初回読んだ時強く印象に残っていたから手元に置いていた。
前回読んだのは学生の頃だったと思う。当時は勘助何で死ぬのぉ?!!と切ない?気持ちでいっぱいになった。歴史小説あるあるだ。主人公に感情移入しすぎて宙に浮いた感情をどこにも持っていけなく悶えた(笑)
35年前TVドラマで勘助役を西田敏行氏が演じていたのを観て夢中になったことを思い出した。勘助役は西田敏行氏以外イメージ湧かない。”眼はすがめ”じゃないけれど大きな眼に高い知性を感じた。もう一度NHK1988年放送の「武田信玄」を観たくなった。
年齢
10代の頃は時代劇主人公に設定されないはずの年配のおじいさんに近い人が主役で話が展開することに違和感を感じていたと思う。ただ読み進めるとそれよりも人間関係に意識が向いて年齢を忘れて夢中になった。
二度目の今は勘助が40代後半から話が始まることに感動した。現代の物語にしてもなかなかない。あるとすればサラリーマンの苦労話や熟年恋愛ものかもしれない。彼が成り上がっていく様は非情なところも含め痛快だ。
子育てが終わり、もう用は終わった感をひしひし感じ始めているこの頃、意図せず読んだこの本に元気を貰った(#^^#) 年齢を意識すると自然切羽詰まる。自分の意思を忠実に叶えようとするなら少なくとも物事はそちらに動くはずだと思えてきた。
相性
史実は分からない。けれど人相や生い立ちは脚色できないだけに作者はそこから人の結びつきを考え本を描いたのだろう。会話が面白かった。
晴信(信玄)は勘助を、勘助が晴信を受け入れるシーンが気持ちよかった。そこには互いの背景が説明されていた。晴信は次男を可愛がる実父を遠ざけた。勘助はなかなか身を立てる手立てがなく(物語では)その容姿もあって人から拒絶される日々を送っていたこと。この背景が二人を硬く結びつけたとあった。相性がいいと気持ちがいいのだろうな。羨ましい。そんな人と出会ってみたい。
側室
側室に対する感情を現代に寄せた感覚で描いているから不思議だった。殿様は世継ぎの為に側室を置くのが当たり前だと思っていたからだ。織田信長や豊臣秀吉、徳川家三大戦国武将が派手だったからかもしれない。この本がきっかけでネット検索したところ意外にも”当たり前”ではなかったことに驚いた。殿様は全員が側室を取れる程経済的に潤っている訳じゃなかったのだと勉強した。
武田信玄は経済的にゆとりがあったから次から次へと好みの姫を手元におこうとした。それを勘助が諫める場面は気持ちが良かった。由布姫に肩入れする気持ちがよく分からなかったけれど、理解できない程の男女を超えた縁がそこにあったことに強く惹かれた。
世継ぎ問題でこれ以上不安分子を増やさないためもあったのだと思った。同じ仲間で分裂して対立する時間を割くほどの余裕は戦国時代にはない。ちょっとした隙に敵が入り込みたちまち滅ぼされる世の中だったから不安分子は出来るだけ早いうちに切り取る必要があるのだ。軍師勘助はその点でも信玄を僧にさせたかったのだろう。この本ではそう読めた。
新旧交代?
歴史小説は好きな方だけれど高坂昌信は知らなかった。前回読んだ時も頭に残らなかったのに今回違った。
”小柄な、顔の小さい、頗る風采の上がらぬ”武人がぼそぼそと話す内容が的確で軍師勘助をうならす様は気持ちがいい。自分の意見を言わずどんな命令でもかしこまって受け完全に遂行する合戦上手な彼は周りから幕僚として重んぜられていないとあった。その証拠として敵地との境の危険な地に赴任させられていたとある。また信玄も彼に対し”八分の信頼と二分の軽蔑感がこめられて”ると記されている。何故か親近感が湧いた(笑)風体は全く違う(顔も身体も大きい)が、仕事先も選ばずかしこまって受け完璧を目指す。時間オーバーすることもあるからそこは違う💦。自分と重ねるなんてレベルが違い過ぎて可笑しく感じるけれど引きつけられる感覚に嘘は付けない。
周りからそれほど重んぜられず、でもそれを苦にせず自分の仕事を完璧にこなすプロに魅力を感じた。
人物像
作者は何故山本勘助を主人公にしたのか色々考えてみた。戦国武将を題材にする時戦闘で命を落とす方が華々しく読者の印象に残るからだと思った。武田信玄や上杉謙信は病死とされているから今一つその点で弱いのかもしれない。彼らの攻防は人の印象に強く残るが。
「風林火山」を読んで今回高坂昌信の活躍、武田勝頼のその後を検索してみると武田信玄がいかに優れた人材だったかを知ることが出来た。人を惹きつける生まれ持った強烈なオーラを纏い、親との確執から生まれたであろう人を見る目の確かさを感じた。また、信頼した人の意見をそのまま受け止める器の大きさも感じた。そこには”裏切り”など考える隙を与えない程の人物だったのだろう(四男勝頼の最期を思うとその差が切なく伝わってくる。武の才があったのに徳と運がなかったのかもしれない)。
川中島の戦いは上杉軍が戦術的には勝利のはずだったのが実際その地を治めたのは武田勢。検索していて武田信玄は政治力があったという文章があった。この本を読んでいてそれが納得できた。
三回目
再読して良かった。年齢によって感じ方が違うものだと体験して分かった。
三回目がいつになるか分からないがその時何を感じるのか楽しみだ。