なかなか読み進められなかった本が山崎豊子氏の「大地の子」。登場人物がほぼ中国人の名前だから頭に入ってこない。一巻の後半になってやっと面白くなって積極的に読み進めることが出来た。それまではトイレ本になっていた。でもそれが読み続けられた理由になったと思う。トイレに入らない日はないから毎日少なくとも一ページは読む。その繰り返しをしているうちに面白くなってきた。

きっかけ

なぜ興味が薄いジャンルの本を選んだかというと説明がつかない。たまたまグーグルで何かを検索した時にNHKのドラマで過去放送されたということが上がってきて頭に残ったからとしか言えない。

日本と中国の差

日本史の授業は江戸時代まではゆっくり受けたという印象だ。しかしそれ以降は最終学期末は大抵時間が足りなくなって授業は速足で終わる。世界大戦の悲惨な状況などは近代歴史というより身近なこととしてとらえている。終戦記念日が近づくとTVなどで放送されるし、映画などで知識を増やしていた。勉強不足な為1960年代の日本や近隣国の歴史はほとんど触れずに育った。

本に書かれている時代背景が全くの想像であることは考えにくい。調べつくして物語を作っていると感じる。だとしたら、新聞等で感じていたものの当時の日本と中国は随分と時代がずれている。頭では理解していても実際は想像も出来ていなかったことが分かりショックだった。

1960年代、集団リンチの場面から物語が始まる。非常に読みづらかった。時代を間違えてるんじゃないかと思えて仕方なかった。

差別

日本人というだけで吊るしあげられるシーンが一巻を通して何度も続く。読んでいて辛くなった。戦争時日本も同じようなことをしていた。理不尽でしかない。自己否定の極みでしんどかった。繰り返してはいけないことだ。

戦争

親を目の前で殺され、自分を守るために死体の下に隠れなければならなくなった状況が描かれている。10歳に満たない主人公が経験することのひとつ。戦時中は今では考えられないことがしょっちゅうあったのだろうと思うと胸が締め付けられる。

親子の愛情

この物語の中で一番大好きなテーマだ。込み上げてくる嗚咽に自分でも驚く。場所に注意して本を読まないと変な人になる(笑)

実の親を亡くした陸一心(主人公)と偶然に出会った教師が彼を人身売買をもくろむ悪人から守った。愛情深く、公平で、誠実な人物像に心を掴まれた。血のつながりなど問題ではない。そっと寄り添う、過剰ではない程よい愛情。そんな難しいバランスで愛を簡単に注いでいる陸徳志(養父)が大好きだ。子どもの時読んだ手塚治虫”ブラックジャック”が実在して欲しいと切に願った頃を思い出す。それほど傍にいて欲しい”存在”だ。(ここから少しネタバレがあるのでご了承いただきたいと思う)

日本人と知られては生活していけない世の中で、恋心を持っていてもそれを打ち明けられない辛さが描かれている。今では経歴等を互いにオープンにして付き合うのが”普通”という世の中だけれど、それが出来ない苦しさが伝わってくる。もうやめて!どうして!と心が叫ぶくらい重くなる。

陸一心の初恋の相手は何年も本人が積極的にアプローチしていたのに彼が恐る恐る日本人だと告白をすると裏切られた気分だとあっさり去っていった。それまでのご縁だと感じた。でも彼女を非難する気にもなれなかった。時代がそうさせたのだ。

ご縁

一つの光がみえてくる。

陸一心が死に直面した時出会った女性が彼を救うことになる。心も体も。清らかでまっすぐな女性を美しく感じた。

この出会いが彼を救うきっかけになる。やっと光が見えてきた。ほっとした。彼女の勇気に感動した。一巻全体が重く苦しい描写が続いていたから反動が大きかった。彼女の自分の本心に忠実で誠実、更に緊迫した場面でそれを冷静に表現し周りを動かしていく姿に凛とした強さを感じた。

人と人との出会いで良くも悪くも人生は変わる。どれだけ心に向き合うことが出来るか、その大切さをあらためて教えられた一冊となった。

時代背景でも人生は大きく変わる。今も戦争が地球で起こっている。どうしたら地球が平和を保てるか考える人が多くなりトップを動かす位になることを心から願う。