家族・仕事・恋愛等、人は人間関係に悩む。そんな時耳にした言葉が”自分軸”。それがいかに大切か頭で理解しても悩みのさなかにいるとなかなか意識出来る人は少ないと思う。そう思うのは自身がブレブレな自分を正当化したいためなのかもしれない。
ブレるから、予期せぬことが起きドラマが生まれる。悩んでいる時、自分軸が大切という言葉を聞いてもなんら響かない。そんなことわかっていると逆にイライラが増す。
タイミングが合う、合わないも複雑に絡んだ人間関係がもたらすものだ。運命という言葉を使って納得させようとする。タイミングが合わなければそれまでの人、合えば運命の人なのかもしれない。ただ、互いを求めあう気持ちや信じる気持ちを否定せず持ち続けているといつかはタイミングが合い形になるのかもしれない。そう信じたくなる”一冊”となった。(以下ネタバレ注意)
政治
”出る杭は打たれる”を三巻で感じた。国のトップの人間関係。
一番上に立つ人は目立つから自由に動けない。二番目が策を練り水面下で動く。結局時期を見計らって自分の思うような体制を築き実権を握る。腹黒さを感じ嫌な気持ちになった。けれど多くの人の上に立つ人は強烈な個性を持っていないと務まらないとも感じた。
誰が味方か敵か見分ける力がないとそこでは生き残れない過酷で孤独な世界だ。敵であっても信念を持つ人を見分け、その人を虜にさせる力も持ち合わせてないと勝ち残っていけない。そう感じた。
この本では政権交代に経済を利用するエピソードが自身の印象に残った。一筋縄ではいかないからスッキリしない。だからリアルっぽい。(著者の取材力の凄さを感じる)
嫉妬
男性のジェラシーは女性のそれとは比べ物にならない位激しいものよと20代前半にどういう流れだったかは覚えていないが母の口から聞いた。仕事をし始めた時だったと思う。
主人公陸一心の学生時代の恋人趙丹青の夫馮長幸が一心に向けるジェラシーが気持ち悪く鬱陶しかった。出生が日本だと知って一心から去った丹青は仕事で活躍している一心に再び魅かれた。でも一心は周りの人に勘違いして欲しくないと思う。過去二人何かがあり、今も妻は一心を想っていると勘繰る夫が嫉妬し続け、機会があれば貶めようとする話が続く。その執念深さに読んでいて疲れた。
更に後半は一心の置かれている立場(実父の情愛を利用し事を有利に運ぼうとする宝華製鉄の意図が一心の地位を押し上げている)に気付いた馮は更に嫉妬する。人望、才能に嫉妬する自分の醜さが見えない。過去には宝華製鉄の中央に匿名で一心を中傷する密告書を数回送った。今回も卑劣なやり方で一心を陥れる。悔しくてその箇所を読み進められなかった。ドラマには必要不可欠な存在だけれど、実世界では一番会いたくない人だ。
自分軸
人間が小さく欲にまみれて醜い自分を感じ取ることが出来ない人物、馮長幸。不快でしかなかった。
しかし逆に捉えると自分軸がブレていない人だと言える。清々しいほど自分の支配欲、出世欲、性欲に忠実だ。こういう人も自分軸がしっかりしていると言えると感じた。何かにつまずき転げ落ちてもある意味自分で納得する時が来るのではないかと思いたい。人のせいにする可能性が非常に高いと感じるけれど。
物語では一番近い人に足元を掬われる。
屈折
”一心~!”と思わず声を上げた場面がある。それは趙丹青との間に起きた。一心のピンチに涙し、陥れた犯人が夫だと知った彼女はそのことを告発する。それによって名誉回復した一心。すぐそれを報告したかったのか、彼が飛ばされた僻地まで何時間もかけて移動し彼女は彼に駆け寄り抱擁する。それを受け止めた一心。そこで声が出た。
本作品の最後にある清原康正氏の解説で”屈折した愛”と表現されてハッとした。想いは彼女の一方通行ではなかったということなのだ。
大地の子
最後のシーンで中国の壮大な自然の描写がある。読み進めるスピードが落ちた。想像するのに時間がかかったのだ。突然の自然の描写に戸惑った。
生みの親と育ての親の間で揺れ動く一心は生みの親との小旅行で答えを出す。
長い年月育み、尊重し合い、感謝を絶やさない関係が一番大切だ。とはいえ実父の慈愛は格別だ。事情も理解できる。
長江の川下りで見えてくる大自然、岩山、人が行きかう様、城、渓谷から一気に見えてくる広大な大地が一心の心の奥にある答えを導き出した。
一心の答えに共感した。
