不妊治療を経てやっと妊娠。子を授かった幸せを感じながらその時を待っていた。
出産
第一子出産は春の日の天気の良い日。TVではテレサテンさんが亡くなったとかなんとか報道されていたのを覚えている。あまり集中できなかった。定期的にやってくる痛みと戦っていた。いつかはこの痛みも治まると思えば何とかしのげるものだ。
夜遅く出産したその日は一般の病室が開いていなく、絵画がおいてある特別室で過ごした。部屋が豪華とかそうじゃないとか関係なく、とても幸せな気持ちになっていた。
次の日の朝
今でも時々思い出す。
新生児室から我が子を連れて自室にいく途中にある階段を登っていった時のこと。大きな窓から降り注ぐ朝日を浴びてとても新鮮な気持ちになった。おこがましいと思いつつも、自分がマリア様になった気分になった。
神様、この子が無事生まれてきました。ありがとうございます。と声に出していた。
夜
その日の昼間、一般の病室に移った。といっても個室。専用のベビーベッドが置いてありいつでも好きな時に子を連れてきて良いことになっていた。大抵夜は自宅での育児に備えて新生児室に預けることが多いが、自身は一時も離れたくないと思い昼間に引き続き自室で一緒に過ごしていた。
抱っこしてやっと寝たと思いほっとしてた時、何げなくドアに目をやった。今思えば何かを感じたと思う。
バー状のドアノブがゆっくり下に動いている。現実に起きてるとは思えなかった。
体が強張った。
ゆっくりドアを押してきた。”トン”と小さな音が聞こえた。
信じられなかった。ドキドキした。
鍵を掛けていたから開かなかった。それを確認したのかゆっくりドアがもとの位置に戻っていき、ドアノブも床と並行に戻っていった。ゆっくりと。
看護師かとも思ったけれど、普通ノックする。夜中だけれど娘の鳴き声が少し前からおさまっていたから看護師が来る理由がない。
出くわしていたらどうなっていたことだろう。
とっ捕まえたい気持ちと許せない気持ちと変な正義感で換気用窓から顔を見たいと思ったけれど、体が思うように動かなかった。
他の人はあまり経験しないのではないか。恐ろしい体験だった。
今コロナの影響で病院は厳重に管理されてると聞く。生まれたばかりの子を抱けないお父さんがいるのは切ないが、モラルの低い人を寄せ付けない点では良かったと自身の経験から強く感じる。
