ネット検索である小説ランキングを見ていたら「コンビニ人間」が目に飛び込んできた。いつもだったらメルカリで検索するところ何故か突然頭に浮かんだ図書館のサイトを見る気になった。一冊だけ貸出可能に丸がついていた。それが最寄りの図書館だったからネットで予約した後すぐに向かった。願ってすぐに読めるなんて幸せだ。以下ネタバレ注意。
構成
まずはじめに不思議に思ったのはこの小説には章がないということだった。普段は最初に目次には目を通すことはないから気付くのに時間がかかった。三分の一読んだところで目次を確認する癖が自分にあるのが今回分かった(≧◇≦)
違うタイプ
日記調で書かれているこの本の主人公古倉さんは自分が変わっていると小学低学年で自覚している。
喧嘩を始めた男子を止めさせる為用具入れから取り出したスコップで頭を殴って泣かせたり、ヒステリーを起こした担任の若い女の先生が喚き散らしその様子に驚いた生徒たちが動揺し泣き始めた時それを止めようと彼女のスカートとパンツを古倉さんは勢いよく下ろした。その度に大人たちが一般的な立ち居振る舞いを理解させようとしても自分は理解できなかったこと、母親はそれを”治そう”と愛情をたっぷり自分に注いだことが淡々と描かれている。
妹の子ども(甥っ子)が生まれて間もない時のことだ。赤ちゃんが泣き始めそれを慌ててあやして静かにさせようとしている妹の姿を見て彼女は”テーブルの上の、ケーキを半分にする時に使った小さなナイフをみながら、静かにさせるだけでいいならとても簡単なのに”という表現をした。ぞっとした。
考えた事も感じたこともないことを淡々と表現されると衝撃が強いものだ。
共感
主人公に違和感を持ちながらも共感した事柄がある。
小学生の頃の経験から口を閉ざすようになったとあった。そこに共感できた。不協和音を起こさないように気を付けて生活していたのは同じだ。大人になり表現方法は幾つもあったのではと振り返ってみたが父の顔を思い出し当時は押し黙った方が生活しやすかったのだ、ベストな選択だと思えている(^_^;)
異物
強く印象に残った言葉がある。
”皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている”とか、”あ、私、異物になっている””正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく”だ。
小学生の頃からクラスの中で異物になっていると意識したことを思い出した。言葉足らずだったこともあって誤解され仲間外れになったことが何度かある。そんな時は言葉を感情的に発することはせず無理せず一人で遊んでいた。
中学では三年生に声を掛けられ一緒に登校したところ二年生の少し大人びた女子たちに待ち伏せされた。口をつぐんだ。
異物を排除しようとするクラスメイトに同調せずにいたこともある。中学一年生の時違う小学校から合流したその人は小学校時代から何故か疎んじられていた。見た目なのか、言動なのかその時は良く分からなかった。周りの噂に振り回されることなく彼女とは自然仲良くなっていつも二人でいた。同じクラスの子たちは男女ともに○○の親友!!と言って自身をいつも後ろから呼んだ。それでもそれが何??とからかわれながらも立ち位置を変えなかった。だがその学年の半ばを過ぎた頃だろうか、彼女は自身の陰口を言っていたと男子から聞き本人に直接聞いたところ口ごもった。それ以降離れた。その後の彼女は孤独と表面上見えたが、今思えば悪口を言える相手がいるということは孤独ではなかったのだろう。
高校では女子特有のグループ所属への安定志向についていけず敢えて一人でいた。でもそこでは男子と話していようが周りも放っておいてくれたから生活しやすかった。
両方の経験からだろうか、異物になることも実害がないのに”異物”を排除しようとする大勢の姿をみることも嫌いだ。
”正常は世界はとても強引”だ。
欲
この本の中では彼女の感情や欲求はほとんど描かれていない。
アルバイト先を決める時すぐに電話を掛けるという行為が数少ない彼女の欲求の一つだ。でもなぜコンビニなのだろう。
コンビニ店員になることで世界の部品になることが出来たと思えたことに安堵している姿が印象的だった。母親や妹の願いに応えたという安堵感も伝わってきた。
後半”伴侶はまだか”の周りの圧に彼女は苦悩するようになる。
その煩わしさを振り払う為元同僚の白羽さんと同居することを選択した。利害が一致したのだ。
白羽さんの言動にイライラした。周りに感謝することなく自分の境遇を時代や人のせいにし、尻拭いを周囲にさせている。自分を過大評価し努力せず逃げているところだ。彼女はイライラしないのだからそれはそれでいいのだろうと自身を納得させた(^▽^;)
同居し始めると、今度は就職、結婚、妊娠と周りの興味はエスカレートしそれに窮屈を感じたのか(詳細は書かれていない)、コンビニを辞めてしまう。その後白羽さんに促されるまま就活をし面接までこぎつけるがその面接会場へ向かう道途中のコンビニに立ち寄る。
店内に入ると自然に体や声が出てきて店員のように動き始める。生き生きしている自分を見つける。初めはハラハラして読んでいたが、同行していた白羽さんに「何をしてるんだ」「ふざけるな」と言われてもひるむことなく自分の細胞全部がコンビニの為に存在していると言い切る彼女を応援していた。気持ちよかった。
これからも寄生し続けるかもしれない白羽さんや母親、妹、友人たち、元同僚に何を言われてもコンビニ人間であり続けようとする古倉さんに揺るぎない力強さを感じた。もうブレないだろう。
進路を決める時、妥協が必要な時もあるが実際それを選ぶより、心の奥から湧き出る欲求通りに選んだ道なら後悔は少ないだろう。選ばなかった道よりは何倍も活き活きできるはずだ。
読み終わって暫くしてこの本が芥川賞を取った作品だと知った。同時に読んでいた芥川龍之介の「運」の”運が良いかどうかは人の捉え方で大きく変わる”という点で少し通じる部分があるのではと思っていたところだったから驚いた( *´艸`)